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5.塔の騎士たち

「国を守りし我らが使命!!」
「悪を制し正義を貫く!!」
「我ら、選ばれし5人衆!」


(せーのっ!)


「「「「国民戦隊ッ! 騎士(ナイト)マン! アンドッ!?」」」」

「ナ、騎士ウーメンッ!」


…………。



「はーーーーー。っざけんな!!!!」


赤の全身タイツはわざとらしいため息をつくと、
目も合わせることなく、乱暴にドアを開けて部屋を出て行った。


「え!? レッドー! てか根岸さ〜ん、待ってくださいよぉ〜」
「チッ、お前のせいだピンク。また僕の有限な時間を無駄にしたな」
「……お、お前がっ、わわわ悪いんだからなっ、僕は関係なヒイィッ!!」


同僚たちも捨て台詞を吐き、レッドを追って出て行く。
みんなを追うこともできず、あたしはひとり残った。


「っはあ……」


金縛りのような重い空気から解放され、その場にずるずるとへたり込んだ。
汗でべっとりと肌に張り付いたマスクを一気にはぎ取ると、
涼しい風が額をさらってくれた。


「……ないと、うーめーん……」


クイッ クイッ


キメポーズを確認する。
うーん、どこがダメだったんだろう。もうやだ……。



あたしたちはお城の警護にあてられたSP。
任命されてわずか2か月、絶賛研修中。
戦隊モノが好きな王さまが国民の中から選抜したのは以下5名。


筋骨隆々、運動神経バツグンのレッド。
眉目秀麗、元ナンバーワンホストのイエロー。
頭脳明晰、生ける広辞苑のブルー。
自宅警備員、体積の怪物ペールオレンジ。
家政科短大卒の事務系OL1年目女子、ゆるふわピンクことあたし。


選抜基準を強さよりも個性を基準にしたのが
仲間割れしがちな理由だと自負してる。


特にリーダーレッドの根岸は男の世界で育ったため、戦隊に女がいるのが気に食わないらしい。

あたしだって、SPなんてしたくない……。
家に迎えにきた兵隊さんに
「王様の言うことは?」
と聞かれて
「ぜったーい!☆」
と反射的に答えちゃって、ここにいるだけなんだから。


「はあ〜〜」


何度目かのため息をついて、抱えた膝に顔をうずめた。
悲観したって我慢するしかない。
だって仕事だし。反逆者には死が訪れるし。

ここでは、
「王様の言うことは?」「ぜったーい☆」
なのだから。



……
…………
………………


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」




………って、うるっさいなあ。何?

急に騒がしくなった外の様子を伺うために廊下に出て、
小窓から顔を出し、はっと息をのんだ。

           ・・
お城の50mほど先に、それがいた。


お堀の前には兵士が集まり厳重に警戒している。
その対象は、あたしがいる3階と同じ高さほどの“黒い影”だった。
姿はよく見えないけれど、ただ、ゆっくりと近づいていた。

……何あれ。



『なにをしておる国民戦隊! あいつを城に近づけるな!!』


小窓のすぐ脇に取り付けられていたスピーカーがギイギイと音を立て、王様の声が城中に響いた。
予想外にやかましく、思わず耳を塞ぐ。
でも事態が1mmも飲み込めていない。
我慢して、そのまま小窓から動きを観察していると、
塔の1階から騎士マンの面々が飛び出てくるのが見えた。
うわっあたし出遅れた!? てか、声かけないかな、フツー。


「根岸さん! ピンクがまだ……!」
「女なんていなくても俺らだけで十分だろ。違うかーッ!?」


あの人本当に自分の感情だけで、チームワーク無視するよね!


「しかし待ってください! あれは!? 僕の辞書には載ってない!」
「ヒ、フヒヒィ、ば、化け物おおおお!?」


さすがの同僚たちも、初めての実践そして初めて対峙した敵に怯んでいるみたい。
その間に“黒い影”は順調に門を突破して、敷地内に侵入。
さらには悠々と闊歩していた。


“黒い影”が敷地内まで近づいてやっとディテールが見えてきたんだけど、
本体を包む漆黒のモヤは竜巻のように渦巻いていて、
時折、黄色や緑の小さな布切れが見えたり消えたりしている。
それは門を守っていた兵士の、階級ごとの制服カラーに酷似していた。

おそるおそる“黒い影”のたもとを覗き込む。
逃げ惑う兵士たちが次々と“黒い影”に巻き込まれていて、
足をすくわれた一人が黒の中に消える瞬間、目が合った。


「———っ!!!」


足の震えが大きくなり、ついに床に膝が付いた瞬間、
胃からせり出した気持ち悪さは、パンケーキの種のような吐瀉物となって現れた。

本当待って。
ウチら、対人間を想定して戦闘の訓練をしていたよね?
あんなのと戦うなんて聞いていない。
つか無理だろ! いい加減にっ……


『国民戦隊たちよ! 今こそロボで戦うのじゃ!!』


のんきな王様の城内放送に、城から歓声がわいた。
あたしには殺意がわいた。


「フフヒイイイイ!! 支給されてなイイイイ!!!!」
「根岸さーん! ロケラン的なのとかないんすかwwww」
「ウッセー、男は特攻! あれは遠近法でデカく見えるだけだ!!」
「ふぅ、リーダーは脳みそまで筋肉だったのですね。僕は離脱させていただきます」
「ピピピ、ピンクだ! 全部、あいつのせいでフヒフヒフヒフうわあああああ!!?」
「ぬおおお! ペールオレンジーーーーーッ!! 今助けぐわあああっ」


ざりざり……

じょりじょり……


うるさくわめき散らす同僚たちとは対称的に、静かにゆっくりと確実に。
奇妙で不快な音を立て、忌まわしい姿の“黒い影”は歩を進めている。


ざりざり……

じょりじょり……



あ、ああ、あ、こわい。
誰か、助けてよ。
あたし、こんなところで死にたくない……!


……っ?
てか“黒い影”、さっきから同じ方向にしか進んでなくない……?
脇に逃げてった兵士は無傷で、“黒い影”の進行を妨げる兵士が巻き込まれていて。
ただ、ひたすらに、この城を目指しているけど。


じゃあ、標的はこの城?

    ・・・・・・・・
まさか、城を襲うのが目的なんじゃなくて、

  ・・・・・・・・・・
ただ真っすぐ進むのが目的だったら……。



こんなヤツ、見たことも聞いたこともないけど、
もしかしたら、ねえこれ、新しい自然災害的なもの?

だとすればこれに立ち向かうのって、
台風の日に田んぼの様子見に行ってるようなものじゃん。
もしくは川の様子を……ってもうどっちでもいいわよ。


…………OK、逃げよう。


あたしは着ていたものをするりと脱いだ。
喚き散らされる声に、ギイギイと雑音を混じらせて抵抗しているスピーカーの隣から、
吐瀉物まみれのマスクやタイツを、思いっきり外に向かって放り投げる。
それは少しだけ宙を漂ったあと、あたしがいる塔に向かう黒の中に吸い込まれた。
“黒い影”と目が合った気がした。


「……さよなら、ピンク」


つぶやいて、下着姿で石の階段を駆け下りた。
荒唐無稽なお遊びから自由になるために。


で、生きるために。
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遠藤あかね

Author:遠藤あかね
あかねだよう。

絵日記を描こうと思ったけど
無理だったので
50のお題という
創作文章系ブログにします。
しばしはね。

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